初夏の5月と10月〜11月頃、那珂川ではカニを採ることができるそうだ。
藻のクズのような毛が生えているので「モクズ(藻屑)蟹」。
今回訪れる常陸大宮市長倉や茂木あたりもこのカニを採る人がいる。水戸でも採る漁師さんがいらっしゃるそうだ。
甲の幅で10cm程度。川カニだが、同種のものは、河口あたりの海でもとれるそうだ。
いわゆる上海蟹と同種のものというと、おいしさを想像してもらえるだろうか。
この長倉あたりのは茹でるとそれはオレンジがかったピンクがきれいだ。
塩ゆでにして、むしゃぶりつくのがなんと言ってもおいしい。
長倉に「わいずみ」という料理と宿をやられている店があり、この季節はカニも生で売ってくれる。
写真は、店で茹でていただいてたいらげたものだが、裏をかえして、単純なかたちをしているのはメス(卵がうまい)、裏のかたちがちょっと凝っていて、毛深いのがオス(味がのっている)。
水戸生まれの僕は、幼い頃、カニと言えば、このモクズ蟹だった。生きたままだれかが家にもってきてくれて、必ずたらいから逃げ出して、おいかけて・・。
ズワイやタラバなんて、あんな神様みたいのは、ずいぶん大きくなってからの出会い。
那珂川の川沿いにの個人の民家の敷地の建つ「小さな蔵(小屋)」が聴水庵だ。
このいかにも那珂川のせせらぎの音を想像させてくれる名は古いものではない。
このお宅はかつて那珂川の長倉河岸で水戸藩の川番所を任された家柄だったとのこと。お宅に当時(江戸時代)の蔵が残り、それをリフォームして宿泊もできる場として提供してくれている。
1階10畳、2階10畳に台所のある土間がついた作りの木造の蔵。
2階にあがる急な階段は、人の登り折りで使い込んでできた減りがわかる。
でも丈夫だ。
ほんとうに川際にあるので、窓からは那珂川の流れが美しく見える。
水面、緑、それらを照らしきらめいている光・・。
昭和60年に那珂川のこのあたりは大水に見舞われたので、今は、崖が修復されているが、それでもこれほどの川際の臨場感を感じさせてくれる場所はそうそうないような気がする。
岡倉天心の六角堂は五浦の海だが、なんだかひとりぽつんとここにいたら、天心ばりに瞑想できそうな、はたまた太公望のように釣り付きだった天心のように日がな一日釣り糸を垂れていれそうな・・。なーんて。
長倉の河岸からは、水戸藩に収穫された米などが送られていたそうだ。
今回は棚田めぐりから、この聴水庵だが、このあたりの歴史をたぐれば、ものがたりがつながりそうだ。
御前山あたりは水戸藩でも大事にしていた場所だったのだろう。長倉のとなりの野口(野口小学校の所)には水戸藩の弘道館の分校のような「郷校 時雍館(じようかん)」もあった。
そして、G先輩が、「御前山の下伊勢畑に戊辰戦争で名を残す香川敬三が生まれ、彼は藤田東湖を慕い、この長倉の河岸から小舟に乗って郷里を旅立ったんだよ・・」と教えてくれた。